2013年06月06日

ひかりの剣

今回ご紹介させていただくのは、『ひかりの剣』(文春文庫・海堂尊著)。
もしかしたら著者をご覧になって、「あれ?」と思われた方もいらっしゃるかもしれませんね。
海堂氏は『チーム・バチスタの栄光』を始め、医療系ミステリーを多く書かれていて、そっちの方で有名ですものね。
かく言う私も、その彼がどんなスポーツ小説を書くのだろう?という好奇心から手に取った作品です。
まずは、あらすじから。

ひかりの剣(本書より抜粋)
覇者は外科の世界で大成するといわれる医学部剣道部の「医鷲旗大会」。
そこで、桜宮・東城大の〈猛虎〉速水晃一と、東京・帝華大の〈伏龍〉清川吾郎による伝説の戦いがあった。
東城大の顧問・高階ら『チーム・バチスタ』でおなじみの面々がメスの代わりに竹刀で鎬(しのぎ)を削る、医療ミステリーの旗手が放つ青春小説。


大学医学部限定の剣道大会、その名も「医鷲旗大会」。そこでの優勝を巡って、各大学の剣道部員がそれぞれのやり方で己を磨き、策を練り、戦いの中で成長していく物語です。
舞台が大学の剣道部なので、かなり本格的と申しましょうか。
正直、剣道を全くご存じない方が読むには少々苦労するかもしれません。私も知り合いの剣道少年達に聞きながら理解した箇所もありました。
でも、その分、読み応え充分な内容となっております。

剣の道を志す人達は、皆、武士道の精神を持っているのか思いきや、本書の登場人物は策士がいたり、タヌキがいたり……本来、正統派と思われる、己に厳しい実直な剣士が、その実直さゆえの「弱さ」を指摘されたりもする。
そういう意味では、剣道も他のスポーツと変わりがないなぁ、と共感できる部分もたくさんあって、それでいて、クライマックスに向けての「死闘」はやはり剣道ならでは見どころが盛りだくさんで、剣道にあまり精通していない方にも、是非、苦労をしてでも(笑)読んでいただきたい作品です。

少々ネタバレになりますが、私の好きなシーンを一つ、ご紹介させてください。
ろくに稽古もしていない剣道部の顧問が、「医鷲旗大会」優勝に向けて必死に努力してきた剣道部員達を難なく打ち負かしてから、言い放つ台詞があります。
「君が私に勝てない理由は簡単さ。私は毎日、手術室という命を削る戦いの場に身を置いている。メスという刃は竹刀より小さいが、その下で繰り広げられる世界は、一歩間違えば相手の命を奪う真剣勝負。剣道場で行われている勝負よりも厳しい。そこで毎日メスを振るっていれば、剣筋はおのずと磨かれる」

『チーム・バチスタの栄光』、『ジェネラル・ルージュの凱旋』等々、各作品の伏線として読んでみるのも楽しいのではないでしょうか。


posted by 宮城あおば at 07:52| Comment(0) | スポーツ小説紹介

2013年05月09日

スポーツ小説の認知度

たまには、読書感想以外の話をしようかと思います。
スポーツ小説がマイナーなジャンルである事は百も承知で、案外、そのマイナーであるが故の心地良さみたいなものもあって、それは世間の主流がスマホに傾く中、『相棒』の杉下右京さんがいまだパカ式の携帯電話を使っていらっしゃることを発見した時のささやかな感動であったり、親近感であったり、そんな感覚に近いのではないでしょうか。

ただ一つ、困った事に、いざ情報を集めようとした時に、なかなか思うものが得られない。
先日も、新しいスポーツ小説が出ているか、大手通販サイトでチェックしようとしたところ、あまりのマイナーぶりに驚きました。
まず、本のカテゴリーで「スポーツ」と検索をかけると、
・スポーツ医科学
・自伝、読み物
・実践、ハウツー
・名鑑、年鑑
・ルール、用語集
の順に分類されていて、「自伝、読み物」が同一カテゴリーに分類されている事に嫌な予感を抱きながらもクリックすると、栄養学、スポーツ産業論、人生論に混じって、スポーツ小説が数作品、という品揃えの薄さで。
しかも短編集であったり、舞台がスポーツクラブというだけの官能小説であったりで、今まで此処で紹介させていただいたような読み応えのある長編スポーツ小説は出てきませんでした。

いや、予想以上にマイナーですねぇ。(苦笑)
でもね、個々のタイトルで検索をかけると、しっかり出てくるのですよ。
つまり、スポーツ小説としてのジャンルが世間的に確立されていないか、出版社がスポーツ小説として売り出しても売れないだろうから、青春小説で出しちゃえ!みたいな思惑が働いているとか。
そういった事情ではなかろうかと思うのです。
だからこそ、スポーツ小説好きの人に出会うと、嬉しくなるのでしょうね。
メジャーにならなくても良いから、もう少しだけスポーツ小説の地位向上を夢見て、これからも細々と活動を続けていきたいと思います。



posted by 宮城あおば at 15:47| Comment(0) | 雑談

2013年04月30日

空をつかむまで

今月も、どうにか滑り込みで間に合いました。(苦笑)
今回ご紹介させていただくのは、『空をつかむまで』(集英社文庫・関口尚著)。
スポーツ小説のジャンルではあまり語られていないのではないかと思って、挙げてみました。
メジャーな作品が続いていたのでね。
『プリズムの夏』や『パコと魔法の絵本』で有名な作家さんですが、実はスポーツ小説も書いていらっしゃるんです。
まずは、あらすじから。


空をつかむまで(本書より抜粋)
膝の故障で得意のサッカーを諦めた優太は、廃校が決まった田舎の中学に通う3年生。無理やり入部させられた水泳部には、姫と呼ばれる県の記録保持者と、泳げないデブのモー次郎しかいない。3人は、なくなってしまう美里中学の名前を残すため、大切な人のため、優勝すべくトライアスロンに挑む。市町村合併を背景にまばゆい青春の葛藤と疾走を描いた少年少女小説。


もしかしたら、作者様ご本人はそんなつもりはないのかもしれませんが、私、個人としてはスポーツ小説だと思っています。
ここに出てくる三人は、それぞれに「躓き」があって、潰れかけた水泳部に集められます。
「挫折」というほど決定的な事でもなくて、教科書に出てくる中学生像を望む大人には「その程度のことで……」と言われそうな「躓き」。
彼等もそれが分かっているので口には出来ないけれど、その「躓き」を抱えたまま、うだうだと過ごしている。
物語は、そんな彼等に廃部寸前の水泳部・顧問からある「課題」を言い渡されることから動き出します。
その課題とは、ジュニアトライアスロンに挑戦すること。
個々に苦手な種目のある彼等は、ローカル・ルールを駆使して、課題に挑むが――

ここから先はネタバレになるので、読んでからのお楽しみという事で。
中学生ならではの柔らかくも脆い内面が丁寧に描かれていて、笑いあり、切なさあり、甘酸っぱい恋愛もちょこっとありで、色々な場面で「中学時代って、こんな感じだったなぁ」としみじみ思える作品です。
興味のある方は、是非!



posted by 宮城あおば at 08:43| Comment(0) | スポーツ小説紹介

2013年03月28日

一瞬の風になれ

なかなか、こちらのコンテンツに手が回らなくて、自分でも歯がゆい思いをしておりますが、細く、長く、続けてまいりたいと思います。

さて、今回紹介させていただくのは、有名なスポーツ小説をもう一本。
『一瞬の風になれ』(講談社・佐藤多佳子著)です。

あらすじ(本書より抜粋)
春野台高校陸上部。とくに強豪でもないこの部に、二人のスプリンターが入部した。
新二と連。二人は才能の残酷さ、勝負の厳しさに出会いながらも、強烈に感じる、走ることの楽しさ。
意味なんかない。でも走ることが、単純に、尊いのだ。
爽快陸上青春小説。


この作品、実は私も拙宅に来てくださる読者の方から教えてもらいました。
普通、スポーツもので二人のキャラが登場する場合、努力型と天才肌に分かれて、最後は努力型の主人公が勝利を得る、というパターンが多いと思うのですが、『一瞬の風になれ』はひと味違うのです。

主人公の新二は、もとはサッカー少年で、同じくサッカー選手で、何でも出来る(ように見える)お兄ちゃんにコンプレックスを抱いています。
通常のスポ根ものなら、そこから奮起して兄を超える下剋上路線に走ると思うのですが、新二は進路変更をするのです。陸上へ。
その過程も、最初から強い信念があるでもなく、でも、十代ってそんな感じだったなぁ、と共感できる展開で、そういう、等身大の少年の感性が、この作品には随所に描かれています。
また、新二と正反対の性格の連も良い味を出しています。
彼は短距離のセンス抜群。いわゆる天才肌の部類に入るのですが、練習が嫌いで、自分の才能を持て余している感があります。
そんな彼にも、陸上未経験の新二が同じフィールドに入ってきたことで、少しずつ変化が起こります。
競技の世界って、強さがものを言いますが、荒っぽければ良いというものでもなくて。
タフさと繊細さと、両方をバランスよくコントロールできる選手が本番で強さを発揮すると思うのですが、心身共に未成熟な少年達ですから、なかなか上手く行かない。
新二も連も、それぞれに違う繊細さを持っていて、未熟な彼等が様々な経験を通して成長していく様は、傍観者であったはずの読者もいつの間にか巻き込んで、多くの感動を与えてくれます。
特に、クライマックスのリレーは、陸上をご存じない方でも、他人事ではいられないと思います。
全三巻と長編作品ですが、その分、読み応え充分です。まだの方は、是非!


posted by 宮城あおば at 21:59| Comment(0) | スポーツ小説紹介

2013年02月07日

青が散る

すでにご存じの方も多いと思いますが、此処でこの作品をスルーする訳にはいかん!ということで、今月はスポーツ小説の王道、『青が散る』(文春文庫・宮本輝著)をご紹介。

あらすじ(本書より抜粋)
新設大学のテニス部員椎名燎平と彼をめぐる男友達、女友達。原色のいのち燃える人生の短い季節を急ぎ駆けぬける者、ためらい立ちどまる者……。青春の光芒のあざやかさ、そして切なさとむなしさを、テニスコートに白球を追う若い群像に描き、テニスというスポーツを初めて文学作品にした感動の長篇小説。


もしかしたら、今の学生さん達には「なんで?」と疑問符のつく描写もあるかもしれません。
でも、それ以上に共感できる部分が多いと思います。
登場人物は、ほぼ大学生。十代の後半から二十代の始めの、肉体的には最も充実しているけれど、精神的は未熟なお年頃。
恋に、生き方に、将来に、行く先々で壁にぶつかり、葛藤する様を、テニスという“選手の精神状態がボールのやり取りにも反映される競技”を通して表現されている。ここに魅了を感じます。
余談ですが、昔のテニスボールは白球。つまり白かったんですね。
アニメ『エースをねらえ!』でも、白いテニスボールを使用していました。
いつだったか、私も某メーカーが復刻版として売り出した白球をいただきまして、ラリーをしてみましたが、黄色いボールで慣れているせいか、見辛かったです。
年配のコーチは感慨深げでしたが……(苦笑)
汗臭く、泥臭く。これぞ青春!と思うのですが、いかがでしょうか。
興味のある方は、是非!


posted by 宮城あおば at 17:44| Comment(0) | スポーツ小説紹介